室温で塗るだけ、焼成フリー金属ナノインクの金原研究室では、印刷エレクトロニクスに向けた溶液材料を研究しています。

研究内容

研究内容

  • 行き詰る半導体産業

エルピーダ、ルネサス、シャープ、パナソニック、SONY・・・いずれも日本を代表する大企業です(でした)。現在、液晶テレビや太陽電池等を製造する半導体産業は、工場と製造設備さえあれば、世界中どこでもモノづくりができるようになりました。その結果、半導体産業はチキンレースとも言われるような、終わりの無い価格競争に突入しました。このような状況では、もはや勝者は最後に生き残る一社のみです。上記の日本の大企業も例外ではありません。世界との競争に敗れどの企業も巨額な赤字を出しています。もはや、大企業への就職がリスクヘッジとなった古き良き時代は終わりました。学生の皆さん、自分を助けるのはすべてを含めた実力のみの時代です。世界のフラット化により、競争相手は日本人ではありません。3ヶ国語を平気で使いこなし、ハングリーな海外の優秀な人材です。心してください。わき道にそれました。さて、チキンレースに陥る最大の原因を考えますと、製造設備に必要な巨額の投資資金に行き着きます。現在、製品が目まぐるしく移り変わり、巨額な初期投資を回収するための時間はどんどん短くなっています。従来の、工場に莫大な投資を必要とする半導体産業は、特に最終製品に近いほど終焉を迎えようとしています。

これを解決できる未来の産業がプリンテッド・エレクトロニクスと呼ばれるモノづくりです。初期投資額の圧倒的に安い印刷機を使って、太陽電池等の製品を印刷して作り出します。ポイントは圧倒的に安い初期投資です。このようなモノづくりが実現すれば、従来の半導体産業が抱える問題を解決できるはずです。実際に、プリンテッド・エレクトロニクスは今後10年ごとに20-30倍の驚異的な伸びで市場を形成し、その規模は数百兆円を超えると見られています。

従来の半導体産業では、材料はSi, Cu, Au・・・等の元素でした。化学者の出番はありませんでした。プリンテッド・エレクトロニクスでは、この状況が一変します。印刷に適した、専用に設計されたインク材料を合成する必要があるからです。未来の印刷産業では、材料合成の重要性がこれまでには考えられないほど重要になるはずです。

画像の説明

  • 金属ナノ粒子インクの背景

プリンテッド・エレクトロニクスでは、印刷によって電気回路を描画します。金属ナノ粒子は、印刷用配線材料として最も重要な材料です。金属ナノ粒子はナノサイズゆえの広大な表面積を有し、そのままでは不安定で存在できません。従来の金属ナノ粒子は、図1左に示すように、せっけん分子に類似した構造を持つ有機化合物(配位子)によって表面を保護し、安定化させています。この配位子の分散力によって、金属ナノ粒子は溶液中に溶解し、インクとして扱えるようになります。配位子は必要不可欠なものですが、金属ナノ粒子を配線材料として用いるときに問題が生じます。通常、配位子は絶縁体ですから、電気を流しません。そのため、金属ナノ粒子溶液を塗って形成させた薄膜(図1右)も導電性はありません。そのため、ナノ粒子を塗布した後に120℃以上の熱処理を行い、配位子を除去します。このような操作によって、金属同士が接触し、導電性を発揮させるのが従来の金属ナノ粒子インクです。しかしながら、このような高温熱処理にプラスチックは適しません。また、配位子が失われるために必ず体積が収縮し、基板が引きつります。引きつりの効果は基板面積が大きくなるほど顕著になり、基板の平面性を保つことが大変難しくなります。これは従来の金属ナノ粒子インクの致命的ともいえる欠点と考えられます。
ナノ粒子
図1 金属ナノ粒子の模式図(左)と金属ナノ粒子の透過型電子顕微鏡像(右)。黒い部分が金属ナノ粒子コア、コア周囲の白い部分は絶縁性の配位子層。

 

  • 塗るだけで導電性を発現するπ(パイ)接合金属ナノ粒子

上記の問題すべてを解決するため、我々が提案するのは、配位子層に導電性を持たせるアプローチです。皆さんはフタロシアニンという色素分子をご存知でしょうか。フタロシアニンは、光合成のエネルギーを集めるポルフィリンと呼ばれる分子に類似した構造を有し、新幹線の青色にも用いられる堅牢なπ共役系分子です。我々はこのような分子を金属ナノ粒子表面に貼り付けた、それまで誰も合成していなかった新しい物質を作り出しました。フタロシアニンはそのままでは絶縁性で、電気は流れません。ところが、金属ナノ粒子の上に貼り付いたとき、フタロシアニンの性質は一変します。図2に示すように、フタロシアニンと金属ナノ粒子との出会いによって、有機π軌道と金属軌道が交じり合います。その結果、絶縁性であったフタロシアニンに金属の性質が発現し、ナノ粒子間で極めて効果的に電気が流れるようになります。このような現象は我々の研究によって初めて明らかにされました。π共役系分子が金属ナノ粒子表面に張り付いた結果として、強い軌道の混成を生じる現象を我々はπ接合と名づけました。
 

パイ接合
 
図2 π接合金属ナノ粒子の模式図。はじめ絶縁性であったフタロシアニンのπ軌道(上、青色で表現)は金属軌道との混成により、金属的性質が付与される(下、緑色で表現)。その結果、配位子を取り除くことなく導電性が発現する。

 
π接合金属ナノ粒子は、溶液を塗って乾燥させるだけ、一切の後処理無しに、金ナノ粒子では9 μΩcm、銀ナノ粒子では30 μΩcmの金属並み導電性を発現します。金ナノ粒子の抵抗率はすでにバルク金と同じオーダー、驚異的に低い抵抗値です。現在、導電性塗布膜を形成できる溶液材料は金属ナノ粒子のほか、導電性高分子、カーボンナノチューブおよびグラフェンがあります。我々の材料は2013年6月現在、室温で用いることのできる溶液導電材料として、あらゆる材料を凌駕する世界最高の導電率を有しています。以下の動画では実際に乾燥過程をご覧いただけます。詳しくは、フリーアクセス論文(ここをクリック!)を参照ください。
 

 
動画 π接合金ナノ粒子水溶液を室温でPETフィルムに塗り、室温で乾燥させると乾燥直後に0.4Ωの良好な導電性を示す。4倍速動画。
 

π接合金属ナノ粒子溶液は極めて安定です。マイケル・ファラデーは150年以上前に金ナノ粒子を作りました。英国の研究室には今でも当時の姿を保つファラデーの金ナノ粒子溶液が保存されています。我々の材料はファラデーの金ナノ粒子の安定性を参考に合成しています。現在我々は、50 wt%を超える高濃度の金属ナノ粒子溶液においても、極めて優れた溶液分散性を有するナノインクの合成に成功しています。

 
 

  • 室温印刷でデバイス製造

室温で塗るだけで電気を流す材料ができると、一切熱処理を行わずに、有機トランジスタ等のデバイスを室温印刷で作成できます。以下に示すデバイスは、我々が共同研究を行い作成いただいた一例です。我々のπ接合金属ナノ粒子を用いたモノづくりは、このようなデバイスに限定されず、バイオセンサー等の幅広い領域で広がり続けています。
 

画像の説明
 
図3 シリコン基板上に、すべて室温塗布プロセスを用いて作成した有機トランジスタ。室温塗布プロセスで作成したトランジスタとして、2013年1月現在、世界最高の性能(移動度)を示す。大阪大学 竹谷先生、植村先生、広島大学 瀧宮先生との共同研究。
 

画像の説明
 
図4 プラスチックフィルム上に、すべて室温塗布プロセスを用いて作成した有機トランジスタアレイ。物質・材料研究機構 三成先生との共同研究。
 

powered by Quick Homepage Maker 4.91
based on PukiWiki 1.4.7 License is GPL. QHM

最新の更新 RSS  Valid XHTML 1.0 Transitional